ミャンマー人のドル紙幣への対応

 ミャンマーでは「ドル紙幣は新品新札でなければならない。」という話は広く知られている事実であるが、その理由は判然としない。特に自国通貨であるKyat紙幣は今にも破れそうなヨレヨレの紙幣でも何の抵抗もなく受け入れるから不思議な現象としか言いようがない。昨年8月からヤンゴンで生活を始め、約半年になるが、最近になって新札ドル紙幣への拘りの度合いが増しているように感じられる今日この頃である。

 企業間の代金決済は振込み処理が一般であることは異論をはさまない。然し、昨年秋にヤンゴンで初めて振込み処理を試みたが、なんと振込んだ金額が相手銀行の顧客の口座に納まるまでに5日間も要した。我が社から顧客までは距離にして車で15分だから目と鼻の先である。外貨送金を受け付ける我が社の取引銀行の支店も、わが社から約15分のところにある。従って、振込み手続きを行うより、銀行で現金を引き出して直接顧客に納めるのが最も短時間かつ確実な支払方法である。ということで、今回は、銀行に出向いて預金の引き出し手続きを行った。ところが、あろうことか、100ドル札は引き出す合計金額の60%で、残りは20ドル札だと言う。その理由を問い質したところ、最近銀行の利用客が大幅に増加し、100ドル紙幣が不足している状況であるとのことであった。ミャンマーでは紙幣の額面毎に両替のレートが変わり、20ドルだと非常に悪くなるのだ。このことも不可解な事実の1つである。

 然し、今回のドル紙幣の用途は自社でKyatに両替する訳ではなく、顧客への支払いが目的だったので、20ドル紙幣も含め、受け取ったドル紙幣を袋に入ったままの状態で顧客の経理担当マネージャの元に届けた。ところが、顧客の経理担当マネージャは現金での支払いには応じたくないと言う。そこで、振込みには5日も要するため、時間的な余裕がないことを説明し、粘った挙句、しぶしぶ現金での支払いを了解してくれた。ことろが、今度は紙幣の1枚1枚を丹念に、ほんの僅かな汚れや傷も逃さずチェックし、当該紙幣の受け取りを拒否するのだ。「これは、今、銀行から引き出して持参した紙幣だ。」と言ってはみたが、「どこから手に入れたドル紙幣であっても、鮮度のないものは価値がない。」と取り合ってくれないのだ。まるで生鮮食料品と同じ扱いなのである。結局、100ドル紙幣だけでの支払いが出来ず、散々選別した20ドル紙幣と合わせて支払いが完了した。

 ドル紙幣からミャンマーKyatへの両替についても同様の現象が発生している。社員への給与の支払い、公共料金の支払い等の時期が来ると、近くの両替商を訪れ、数枚の100ドル紙幣の両替を求める。当初はあちこちの両替商を回ってレートの良い店を探したが、最近はレートのいい馴染みの両替商も出来て、専らそこに通っている。ところが、最近この店の態度が変わってきたのだ。100ドル紙幣を差し出すと、先程述べた顧客の経理担当マネージャと同様、1枚1枚丹念にチェックするのだ。先ず裏表を目視チェックし、次に偽札鑑別機らしき怪しげな機械に何度も通し、更に再び目視チェックをした上で、最後に、まるでトランプを2つのグループに分けるように、グループ分けし、それぞれの両替レートを示してくる。鮮度によってレートが違うのだ。勿論、受け付けて貰えない紙幣もあるから、3グループに分けられることになる。

<両替機>

<行内に溢れる紙幣の山>

<紙幣NOのレシート >

 これでは、大量のドル紙幣が使えない状況で金庫に眠ることになってしまう。そこで、再び、銀行に出向き、事の顛末を説明し、善処を依頼したところ、「よそで使えないと言われた紙幣は銀行側で引き取るから、銀行が払い出した際に添付していた紙幣番号リストと合わせて窓口に提示してくれ。」との回答であった。銀行で引き出す際、必ず紙幣番号リストと一緒に紙幣が手渡される仕組みなのだ。スーパーで買い物をした際、商品と一緒にレシートを渡して貰えるが、まさにドル紙幣は商品と同じ扱いであり、品質が悪いと、レシートを添付して返品する仕組みとなっている訳だ。
 確かに銀行を訪れると、そこには日本では想像もつかない異様な光景が展開している。店の中央が広いアイランド方式のスペースになっており、周りをカウンターが取り囲んでいる。その中央のアイランドの中のテーブルには、多くの作業員(銀行員とは見えない)が額に汗して紙幣の束を紐で縛り、うず高く積み上げている。そして札束が纏まった数に達すると、手押しの台車にうず高く積み上げて、アイランドの内の作業場から出て来て顧客が溢れるカウンターの脇を通って別室に運んだりしているのである。まさに肉体労働そのもので、銀行ではなく、紙製品工場の現場のイメージである。現金の山を前にしても銀行強盗が現れないようだから、平和と言えば、平和と言えないこともないが、銀行らしからぬ光景だと感じるのは自分だけだろうか?


2015年2月1日(日)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫